ガッチャーン!ガッチャーン! 織り機の音が、耳栓を素通りして鼓膜を震わせる。カノニコ社を訪れた翌日、『Begin』編集部のKさんと私たちは、ベルガモ地方にあるシャツ生地メーカーの工場にいた。巨大な釜で糸を染め上げ、ドラムに縦糸を巻き付ける。そして冒頭の轟音を放つ織り機で織り上げられ、シャツ生地ができあがっていく。淡々とした表情で、その様子を見ているKさん。さすがは長年ファッション誌づくりに携わっているだけあって、まったく動じる気配がない。ところが私たちが訪ねたのは、イタリアが誇る名門・アルビニ社の工場。このあと予想外の驚きが、クールなKさんを襲うことに……。
織り上げ機
染色
 アルビニ社が産声をあげたのは、1世紀以上も前の1876年。以来その品質の高さに魅せられて、同社の生地を買い求めるブランドは数知れず。最新機器を導入した染色技術や織り上げ技術もさることながら、トレンドを意識した生地デザインが優れているのもアルビニの特長だ。「世界じゅうのバイヤーが『ここの新作を見れば、次に流行る生地がわかる』と噂をするほどなんですよ」との説明に、さすがのKさんも驚きを隠せない模様。
 そんなアルビニの生地デザインは、“カラリスト”と呼ばれる職人の手によって行われる。色あわせを緻密に計算しながら糸を1本1本組み合わせることで、独特の柄が完成。彼らの作業を見守りながら「そんな色を組み合わせるなんて、絶対ヘンだよ!」と言っていたKさんも、できあがりの美しさを見て納得していた。
カラリスト
生地見本
ストックの山
   次に向かったのは生地倉庫。扉を開けると、天井まで積み上げられた大量のストックが私たちを出迎えてくれた。「ここには400万メートル(約333万着)分もの生地があるんですよ」という話を聞いたKさん、開いた口がホントにふさがっていません(笑)。そんな彼が次に向かった部屋で、なにやら見つけたようだ。そして不思議そうな顔で一言、「ボロボロの本がなぜ、こんなところに!?」。そりゃ痛んでいて当然ですよ、Kさん。これらは創業当時から使われている生地見本なんですから!


 歴史に裏打ちされた確かなクオリティと、時代を先行くデザインセンス。これらを器用に併せもつアルビニの素材は、『THE SUIT COMPANY』のシャツづくりに欠かせない存在となっている。
 老舗メーカーの歴史を肌で感じ興奮冷めやらぬKさんを連れ、ベルトの名門「ドーラ」の工場へ。「数々の有名ブランドのベルトをつくっているわりに、職人さんが少ない……」と、Kさんは少し意外そう。それもそのはず。ドーラは世界にたった1台しかないボーイング社製の革裁断機をはじめ、最新設備をたくさん採り入れたハイテク工場なのだ。とはいえブランドロゴの刻印やヤスリ掛けなど繊細なセンスが求められる作業は、機械には不可能。熟練の技をもつ職人の出番である。

 「『THE SUIT COMPANY』ともゆかりの深いアルビニとドーラが、世界じゅうの一流ブランドから支持される理由。それは、匠の息づかいをかんじる製品づくりにあるのかも!」と、編集者らしい名ゼリフを披露するKさん。適当に相づちを打つ私の頭のなかは、翌日のミラノ観光(ほんとはリサーチ)のことでいっぱいだった……。

つづく
ボーイング社の裁断機 バックル留めている職人 ロゴ刻印中の職人