私たちがまず向かったのは、流行最先端の街・ミラノからクルマで2時間ほどのビエラ地方。フライトの疲れがまだ残るカラダには、さらなる長距離移動はけっこうキツイ……。というわけで、大盛り上がりとはいい難い私たちを乗せ、山道を走ることさらに1時間。ウィンドウの向こうに、緑豊かな山々が現れ、穏やかな川のせせらぎが見えてきた。「こんなド田舎にいったい何が?」と、久しぶりに口を開いた『Begin』編集部・Kさん。「実は世界屈指の生地メーカーの本社があるんですよ」と私が答えると、Kさんはキョトンとした様子。たしかに、意外だろうなぁ。私も最初に聞いたときは驚いたものだ。

 その生地メーカーの名は「VITALE BARBERRIS CANONICO(ビタール・バルベリス・キャノ二コ)」。
ゼニア、ヒューゴ・ボス、カナーリ、コルネリアーニなどの高級ブランドの生地を手掛けており、その実力は量産型メーカーとしては世界一、二を争うほどだとか。そこでまた、Kさんが「一流メーカーの工場がなぜ山奥に?」と編集者らしい問いを投げかけてきた。その答えのカギを握るのは、ズバリ“水”。結び付けづらいかもしれないが、良質の水は生地作りになくてはならない存在なのだ。なかでも染色の過程では、「水が生地の発色を左右する」といわれるほど。この地に流れ込むアルプスの雪解け水が、生地づくりにとても適しているというワケだ。


カノニコ社
 カノニコ社がアルプスの銘水とともに歩き始めたのは、1936年のこと。しかしそのルーツは、17世紀にまで遡ぼる。この伝統ある老舗メーカーの、日本総輸出量の約半数を占めているのが、わが「THE SUIT COMPANY」なのだ。この大量受注こそが、カノニコ素材のスーツをアンダー3万円で販売できる大きな理由のひとつ。「ホントにカノニコ生地を使っているの!?」と密かに疑っていたフシのあるKさんも、この事実を知って腑に落ちたようだ。

 カノニコ社が長年にわたって守り続けているのは、クラシックでベーシックな生地づくり。そのこだわりは「ベーシック素材の品質や納期に影響が出るなら流行の生地づくりはしない」というオーナーの言葉にも表れている。
ビエラ地区
3代目オーナー・ルチアーノ氏
 この3代目オーナー・ルチアーノ氏の案内で、工場内に、いざ潜入。広大な敷地には、たくさんの大型機械がズラリと並んでいる。それもそのはず。カノニコ社では、製糸から染色、生地生産までを一貫して自社で行う“一貫紡”を採用しているのだ。「生地ができるまで、すべての面倒を見る。ーーカノニコ社の名声には、そのこだわりにも理由があるんですよ」と、ここぞとばかりに知識を披露する私。ただしバタンバタンとうるさい機織りの音にジャマされ、その声はKさんの耳まで届いてなかったキライはあるが(笑)。

 何はともあれ、スーツ生地のふるさと・カノニコ社の見学を無事に終えた私たちは、ビエラ地方を後にしてクルマを東へと走らせた。目指すは、モナコ北東部に位置するベルガモ地方。この地こそ、「THE SUIT COMPANY」のシャツ生地のふるさとなのだっ!
つづく
倉庫の羊毛 機械を使って糸の仕上げ 最終のチェック